木でできた急な階段、1段目2段目が抜け落ち、足場を探すのが大変な階段。
手すりは力なく揺れ動き、体を支えるものすらない。
そんな階段を上りきると、左右に部屋が分かれている。
左手に6畳の和室が2部屋。右手に台所やトイレ、風呂場がある。
畳1枚分のデットスペース。森の色を反映して緑一色に染める。
長年、風雨にさらされたこともあり、雨戸はレールから脱落し、
ホコリの積もったフローリングは、外の光を受けて、黒光りしている。
誰かの意思なのか、部屋の真ん中に黒電話が置いてある。
生活する中で、電話が部屋の真ん中にくることはまずない。
一番置くの畳敷きの部屋には、一組の布団が敷いてあったが、
乱雑さや周囲のゴミなどを考慮すると、家なき人がここを塒(ネグラ)にしていた可能性がある。
しかし、それも随分昔の形跡。ここを無事に巣立っていった事を祈るばかりだ。
キャンプ場の廃墟というのは日本各地、至る所に存在する。そして、シーズンオフのキャンプ場と見間違える事も多い。現在、アウトドア人口は3000万人を超えると言われている。高度経済成長期を境に、人々の生活が次第に豊かになり、レジャーの種類も多種多様に増えていった。日本国民は、古い物を捨て常に新しいものを求めた。その過程の中に、置き忘れられたものがある。時代の波に乗る事ができなかった施設、主を失った施設など、時間の狭間に忘れてきてしまったもの、それが廃墟という形で現在に残る。人々の当時の想いが、こうして具現化されているのではないか。時に人はその想いを懐かしみ、廃墟となった『時代の忘れ物』に心惹かれていく。
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