人々を癒してきた薬品は、時間の経過と共にその逆の薬物へと姿を変える。
しかし、残留思念愛好者達には、その姿はあまり見る事のできない勇姿に映る。
崩れかけた階段を上り2階の布団が敷いてある部屋に入った時だった。
なんだか一瞬寒気がした。
部屋の中の様子は大して特記したことはない。
擦りガラスから入る午後の光は、風化して柔らかくなった畳と、ホコリが積もった布団をオレンジ色に染めている。
静かな部屋には、耳元で鳴る蚊の羽音だけ。
次第に汗が冷や汗に変わっていく。
「クソッ、なんだこの感じは…」
こんなに良い廃墟だというのに、一瞬体が強張った。
意を決して更に一歩足を踏み入れると、押入れが右側にあるのに気付く。
押入れの上段は空っぽだったのだが、下段に一脚の椅子。
その椅子を見た瞬間に体が凍りついた。
クッションが貼られていて鮮やかな椅子には、ホコリが積もっているだけなのだが、そこから発せられる空気は今までにない感覚を覚えた。
「誰か座ってる…」
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